「イグナーツ様。風の噂ですが……義妹様が能有りだったと聞きました。なぜ貴方は《蝕》に属するのに、能有りを受け入れたのですか?」
当たり障りなくシュネが尋ねると、イグナーツは頤に手を添えた。
「奇妙な質問だな。だが、おまえは俺の特別だ。教えてやろう。あの娘は、能有りの中でも最も穢らわしい権能を持っていた。だからこそ、我らが管理すべきだと判断した」
「……管理?」訝しげにシュネが眉を寄せると、イグナーツは淡々と続けた。
「神からの啓示で十八までは生かせと命じられていた。だから満足な生活と教養も与えて泳がせた。だが過去を覚えていれば厄介だ。だから、洗脳して記憶を奪ったと父から聞いた。……全てはその命を贄として使うために」
最後に、「神堕ろしの贄として命を使う」と付け加え、彼は薄く笑う。
その言葉に、シュネの面輪は凍りつく。──洗脳。贄。キルシュちゃんが?
あまりの衝撃に思わず復唱してしまい、自らの失言に気づいた時にはもう遅かった。 イグナーツの手が、無造作にシュネの細い首を掴んだのだから。たちまち寝台に押し倒され、気道が潰れた。
「ぁ……ああ……っ」
目を見開いたまま喘ぐシュネを、イグナーツは嗜虐的に見下ろし、にやりと笑う。
「やはり知っていたか。嘘吐きな花嫁だ」
そのまま惨めに喘ぐ唇へ、乱暴な口付けを落とされた。唇を割って舌が押し込まれ、意識が遠のく寸前──イグナーツはようやく手を離した。
シュネは咳き込み、酸素を求めて肩で息をする。しかし、まただ。力が使えない。無意識でも発動しなかった。揺れる視界で手を見たシュネは、愕然とした。
氷雪の紋様。その上に、赤黒く《蝕》の火輪と歯車──あの日、拘束されていた布に描かれていた印がそこにあった。
間髪入れず、鈍い衝撃が襲う。寝台から突き飛ばされ、頭を壁にぶつけた。
「んぐ…&helli