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Home / 恋愛 / 機械仕掛けの偶像と徒花の聖女 / 53話 消えた氷の乙女

53話 消えた氷の乙女

Author: 日蔭スミレ
2025-06-22 14:30:26

「イグナーツ様。風の噂ですが……義妹様が能有りだったと聞きました。なぜ貴方は《蝕》に属するのに、能有りを受け入れたのですか?」

 当たり障りなくシュネが尋ねると、イグナーツは頤に手を添えた。

「奇妙な質問だな。だが、おまえは俺の特別だ。教えてやろう。あの娘は、能有りの中でも最も穢らわしい権能を持っていた。だからこそ、我らが管理すべきだと判断した」

「……管理?」

 訝しげにシュネが眉を寄せると、イグナーツは淡々と続けた。

「神からの啓示で十八までは生かせと命じられていた。だから満足な生活と教養も与えて泳がせた。だが過去を覚えていれば厄介だ。だから、洗脳して記憶を奪ったと父から聞いた。……全てはその命を贄として使うために」

 最後に、「神堕ろしの贄として命を使う」と付け加え、彼は薄く笑う。

 その言葉に、シュネの面輪は凍りつく。

 ──洗脳。贄。キルシュちゃんが?

 あまりの衝撃に思わず復唱してしまい、自らの失言に気づいた時にはもう遅かった。

 イグナーツの手が、無造作にシュネの細い首を掴んだのだから。

 たちまち寝台に押し倒され、気道が潰れた。

「ぁ……ああ……っ」

 目を見開いたまま喘ぐシュネを、イグナーツは嗜虐的に見下ろし、にやりと笑う。

「やはり知っていたか。嘘吐きな花嫁だ」

 そのまま惨めに喘ぐ唇へ、乱暴な口付けを落とされた。唇を割って舌が押し込まれ、意識が遠のく寸前──イグナーツはようやく手を離した。

 シュネは咳き込み、酸素を求めて肩で息をする。しかし、まただ。力が使えない。無意識でも発動しなかった。揺れる視界で手を見たシュネは、愕然とした。

 氷雪の紋様。その上に、赤黒く《蝕》の火輪と歯車──あの日、拘束されていた布に描かれていた印がそこにあった。

 間髪入れず、鈍い衝撃が襲う。寝台から突き飛ばされ、頭を壁にぶつけた。

「んぐ…&helli
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